カスタマー平均評価: 5
レッズ・サポ人生への応援歌と言うべき一冊! これは浦和レッズそのものではなく、サポーターのサイドに焦点を当てた本である。14人のサポーター人生に取材したどことなく新鮮なレッズ本。 著者はぼくの酒飲み友達でもあるマッチデイプログラム編集長・清尾淳。取材されたサポーターは少なからず内輪では有名な人が多いのだが、それぞれが個性的な人生、独 特の環境下で生きるいろいろな人たちと広範囲に取材されている。 1999年11月27日。レッズはVゴール勝ちをおさめながらもJ2降格が決定した。その一年後の2000年11月19日。レッズはやはりVゴールで薄氷の勝利を呼び込み、どうにか こうにか一年でのJ1復帰を果たした。この二度のVゴールをぼく自身も駒場で経験した身である。二種類の涙も流した。その一年間という季節を軸に、清尾淳は本のイメー ジを膨らませたそうだが、実は取材のうちに本の意味は少しだけ違うものになって来た。J2降格の一年間というもの以上に、レッズを好きな連中がここまで如何なる人生 を辿って、今に結びついているのか、そうした関わりの方にも興味が移って行ったのだと言う。 まるで地下鉄サリン事件に取材した村上春樹の『アンダーグラウンド』のようだとぼくは感じた。多くの様々な種類の人生が、ある朝突然にオウムのサリン事件によって、 何の脈絡もない変更を無理やり余儀なくされたあの悲劇と、そこに関った人々の多様さに取材した力作本である。 本書はあのような重篤な事態を引き起こした暗い事件ではなく、あくまでスポーツ観戦だから、あの本のような深刻な色調までは帯びていないのだが、いかに様々な人生が それぞれの道のりを辿って11月27日に出くわして行ったか、そして11月19日を生きて行ったか、ということが書かれている。他の誰でもなくレッズサポーターであることの 意味が、個々にもたらしている人生の屈曲。その少しだけ寄り道しているぼくを含めたレッズ・サポへの清尾淳ならではの応援歌とも言うべき一冊なのだ。 ちなみにぼくの親しい北海道サポーターの一人にも取材しているため、その章はことさら興味深い。さらに言えば、その中のエピソードとしてぼくも実名で登場していた。本書を手に取って読み進み、そこに至るまでは、ぼくはそんなことは全然知らなかった。知り合いの本は怖い。
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